ひとしきり泣いた彼女は、僕の腕に手を添えて、一言、ありがとうと呟いた。その声に、涙の色はもうない。

 僕はくゆりさんを抱きしめる腕をほどくと、自分の目尻を拭った。彼女はそれを見てくすりと笑った。つられて、僕も笑った。

 泣いてばかりで、格好悪い。でも、それでもいいと思った。

 ころころと笑っていた彼女はふうと息を吐き、僕に向き直った。京都の夜景を背負った彼女は、なんだか真剣な顔をしていた。

「ねぇ、湊くん」

 まっすぐに僕を見上げて、

「湊くんが好きなのは、“どっち”のあたし?」

 NANAか、森園くゆりか。意味を察した僕は、やましくないのに何故かぎくりとした。