「あの、くゆりさん……」
「なぁに?」
「何処行くんですか?」
「内緒」

 おどおどしている彼の腕を引いて地下街を歩く。地下鉄の切符売り場を横切って目指す場所は、あたしのお気に入りの場所。

 ふと湊くんの手首に目が行く。男の人にしては細い手首。そこに巻かれたアナログ時計の針は、八時ちょっと過ぎを示していた。

「湊くん、急ぐよ!」
「え、ええ?!」

 彼の手を掴んで、走り出す。

 地下特有の生ぬるい風が頬を撫でていった。