「で、結局またヨリ戻したのぉ?」
紗枝が半ば呆れたような表情で、わたると山本に言った。
「その件はお騒がせしました」
山本が照れ笑いをしながら、紗枝に答える。
「それよりもさぁ。わたるって元彼とどうしたの?」
「なんで、紗枝ちゃんがそれ知ってるの?」
「だって、この間酔っ払って言ってたじゃん。紗枝全部聞いてたからね。それで、どうなったの?」
前のめりに興味津々といった表情で紗枝は、わたるの方に詰め寄った。
「まあ、本当に悪いと思ったけど、二股は出来ないからね」
不誠実だと思ったが、電話で別れ話をした。
もうこれ以上会って揺らぎ山本を失いたくないと思ったからだ。
「そうなんだあ。元彼結局あて馬状態になった感じかぁ。なんか可哀相かも」
少しばかり厭味ったらしく紗枝は言った。
わたるだってそう思う。
「結構キツイ事言うな紗枝ちゃん……」
山本が困惑気味にわたるに向かって言った。
紗枝が去っていき教室の席に二人で座る。
「そう言えば、この間行けなかったチョコレートプリンの店もう一度行く?」
途端に山本が案を出した。どうやら、苦い思い出の場所を無くしたいらしい。
「そうだね。行こうか」
「じゃあ、予約しとくよ。今度の給料日の後でもいい?」
「この間はキャンセル料払わせたから、うちが奢るよ」
「いや、悪いよ」
「いいよ」
「彼氏だし、奢らせてよ」
「だって悪いし」
バカップルのような会話をしている自分にわたるは気がつき、頬を染める。
その様子を山本は何故かにやにやと厭らしいえみを浮かべて彼女を見ていた。
「じゃあさ。この授業の間手を繋いでてよ。そしたらチャラにするから、キャンセル料」
「はあ?うちら両方とも右利きじゃん。授業どうするの?」
訳の分からない提案に、わたるは更に頬を真っ赤にして素朴な疑問を投げかけた。
「俺左でもいけるかもしんない」
「書いてみてよ」
「おう」
そう自信満々に答え、山本は「近代都市が人類にもたらした影響」とわたるがギリギリ読めるか読めないかの字を左手で持ったシャープペンシルでノートに書いていく。
「アハハハ、下手くそ!」
「うるせえ!ああ、俺怒った!今日一日ステディ繋ぎでいてやる」
「バカ!無理!」
二人で騒いでいると、マイク越しに教授の怒りの声が聞こえた。
「そこ、毎回毎回。いい加減にしないと単位やらないぞ!」
わたると山本は顔を見合わせ、慌てて前を向く。
彼女の左手と彼の右手はしっかり繋がれていた。



