それから約一年。景子の片思いは続き、募る想いは彼女の中に蓄積されていく。


「まだ、好きなの?」


受験が近くなってきたバレンタイン直前。


学校の昼休み中に、弁当を食べ終えた景子は友人と恋の話で盛り上がっていた。


景子の番になり高柳の話をすると、中学二年生の補講で知り合い、その頃からずっと仲の良い後藤真弓が、驚いたような表情で食べていたコンビニで販売されているサラダを景子の机の上に置き言った。


沢山の具がドレッシングと絡まり合い、窓から差し込む太陽の光に反射されてキラキラと輝いている。


「だって、カッコイイんだもん。早く大学生になって対等になりたい!いいじゃん、真弓は自己推薦入試で合格してるし、彼氏もいるんでしょ?」


「ああ、あいつとはこの間別れた。しかも大学受かってるって言ってもしがない女子大だけどね。それよかさ、高柳先生っていくつなの?」


つい先月まで大好きだった彼氏の事を、どうでもいいことのように話した後、自分の事はどうでもいいという風に真弓は長い髪の毛を髪の毛専用のゴムで縛った後、景子の方へ身を乗り出す。


「今大学二年生」


「じゃあ、景子が大学生になったら一女三男かー。一番カップルになりやすい組み合わせだよね」


うんうん、と頷きながら真弓は言った。

大学が決まってからインターネットを使用し、大学の豆知識を集めることに凝っているようである。


受験前の景子の前ではなるべくそういった話題は避けているようなのを景子は気がついていた。


「そうなの?」


景子は細かい事に引っかからないように、視線を落とし真弓の置いたサラダを見る。


食べかけのキラキラ輝く野菜達の入った容器の側面には材料とカロリーが書かれており、どこかの知らない大人達の手によって緻密な計算をされて生まれたのだろうと考えた。


こんな細かい表を一体日本中で何人の人が見るのだろう。


大人の考えていることは難しくてよく分からない。


「某掲示板でよく書かれてたよ。それよりも重要なのが、高柳先生が彼女持ちかって話だよね?」


「彼女はいるのかな?なんか教えてくれないんだよね。最近の塾はそういうの厳しいみたいでさ。でも受験が終わったらLINEのIDは聞くつもり」

 
思考を戻し、景子はここ一年間ずっと考えていた計画を真弓に言う。


「何それ、青春ー!先生とこのまま終わりたくない。ID貰って下さい。そして私も貰って下さいって?」

キャーと大きな声で真弓が騒いだ。

「オヤジギャグかよ。爆笑」

教室にいるクラスメイト達が何事かと景子達の方を見る。未だ受験が終わっていない子達は、赤本を片手にしつつ迷惑そうに真弓の方を見ていた。


「真弓。一回黙れよ」


 笑顔で毒づく景子に真弓は笑った後、景子の机の上に置いたサラダを再び手に取り食べ始めた。


「このドレッシング、少し甘酸っぱいんだけど」