トップバッターの景子が話し終える。


「先生と恋愛っていいね」


と佑香が言った。


皿の上にトマトが残っている。


それを彼女はフォークでさし、口に運んだ。


「バンドマンやっぱりロールキャベツ男子だったか」


真弓がうんうんと頷きながら、ナプキンで口を拭く。


「ちょっと、真弓。そのバンドマンってあだ名やめてよね!」


「ん?なんで、バンドマン?」


わたるが景子に向かって言ったが、答えたのは真弓だった。


「いや、だって景子の彼氏めっちゃインディーズバンド好きなんだよね。自分でギターとかもやってるみたいだしさ。だからバンドマン」


「お前それ、景子の彼氏さんに失礼だろ」


わたるの言葉に真弓は口を尖らせる。


「だって、景子だって篠村の好きだった人ガンダムって呼んでるじゃん」


「ガンダム!」


先ほどまで怒っていた景子が、飲んでいたベリーニを噴き出しそうになりながら言った。


「ガンダムじゃないよ。大月君だよ」


トマトを飲み込んだ佑香は、情けない声で反論する。


「前にカレー屋で話してた後からうち聞いてない。あれからどうなってんの?」


「ってかうちはそれすら聞いてない」


景子と真弓が興味津々といった表情で佑香の方へ詰め寄った。


「いや、うちの話はいいよ」


手を振って、佑香は空になった皿の端に銀のフォークを置く。


トマトのヘタだけが皿の中央に乗っていて、それを見つけたわたるが噴き出した。


「お前、それ。なんかヤバイ」


「可愛いでしょ。ヘタが真ん中にチョコンって乗ってるの」


くだらない事で盛り上がり始める二人に間に景子が入る。


「ちょっと。今日は恋バナする女子会なんだから篠村も言えよ。野田も」


「えー。いいよ」


「うちもパス」


乗り気ではない佑香とわたるを景子は睨んだ。


「篠村言えよ」


「えー……だって、面白くないもん。うちの恋愛の話は」


そうこうしているうちに、次の料理がテーブルの上に届く。


色とりどりの野菜のサラダの次はシンプルなカボチャスープだ。


白い大きな陶器の皿の握りこぶし程の溝に、そのスープは入っている。


淵の両端には、白い粉と黒い粉が簡単にまぶしてあった。


こちらは先ほとど同じく山形県の農家から直送で仕入れたカボチャでして、通常のカボチャよりもやや甘めに出来ております。


味の変化を楽しまれたければ、皿の淵にソルトとペッパーが掛っておりますので、お好みでスープの中へ入れて召しあがって下さい。


柏木が丁寧に説明を施し、礼をして去った。


「ほら早く」


柏木の姿が見えなくなったと確認すると、真弓も佑香をせかす。


「えー、絶対面白くないよ」


渋々とであったが、佑香がぽつぽつと話始めた。