本日は猛暑の中、当店をご利用頂きありがとうございます。


本日担当させて頂きますのは、私柏木(かしわぎ)と申します。


どうぞ、ごゆるりと当店自慢の料理を堪能下さいませ。


 東京青山にある、明治時代に建築された御屋敷を改造した大きなシャンデリアで有名な店で働いている上品な四十代の男性スタッフが、テーブルに座っているドレスアップをした女性達に声をかける。

緊張した面持ちの彼女達はスタッフが去っていくと、ホっと溜息をついた。


「なんか、緊張しない?」


 ショートヘアで茶色く髪の毛を染めており、白いワンピースに身を包んでいる緑山景子(みどりやまけいこ)が、クリームピンクのマニキュアで彩られた手を隣に目の前に座っている後藤真弓(ごとうまゆみ)の肩に乗せ声をかける。


マキシタケワンピースを着ている真弓は黒く長い髪の毛にパーマをかけ、 少しばかり化粧が濃い。

鼻が高いので、時々ハーフに間違えられる事があるらしい。


彼女の耳からぶら下がっているトルコ石のピアスが彼女の頷きに合わせて、ゆらゆら揺れる。


「確かに。大学生同士であんまりこういう高いお店来ないよね」

「確かに来ない」


髪の毛をポニーテールにして、景子と真弓の間に座っている篠村佑香(しのむら ゆうか)が同意した。

黒い半そでのジャケットは、彼女の細身の身体をよりいっそう引きしめて見せている。


「うちは、今日篠村がジーンズで来るんじゃないかと思って冷や冷やしてたよ」


佑香の目の前に座っている野田(のだ)わたるが、頷きながら言う。


名前はわたると男の子のような名前だが、れっきとした女性だ。


見かけは可愛らしい格好をしており、縦巻きにした景子よりも更に明るい褐色の髪の毛を横でしばり、シュシュでまとめている。

洋服もこの中で一番可愛らしい。

シンプルな白いワンピースを着ている景子とは対照的に、花柄のレースのついたワンピースを着ているわたる。


 そんな個性も見かけものバラバラの四人。

中高一貫校の女子校で六年間の友情を育んだメンバーでもある。


卒業してから三年。


いつとは決まってはいないが、こうして定期的に集まっているのだ。


しかし、こういった金額高いレストランで食事を取るのは初めてで、先ほど彼女達が言ったように、四人の女子大生は少しばかり緊張していた。


 事の始まりは、インターネットを見ていた真弓が、景子に電話をし「高いレストランのクーポンケンがあったから、そこで今回はリッチな女子会をやろうよ」と言った事である。


すぐさま景子が了承し、佑香とわたるに一斉送信でメールを送った。


一週間後には全員が日程を調節してそれぞれ合わせ、この店を予約したのだ。