「えー、小春ちゃんは小春ちゃんじゃない。

この荷物はどこに運べばいい?」

段ボール箱を持ちあげて聞いてきた彼に、
「適当に置いといてください、後であたしが部屋まで運びますので」

あたしは答えた。

「わかった」

結構冷たく、それも“塩対応”と言うヤツで答えたんだけど…彼はめげないと言った様子であたしに笑いかけた後、その場から離れた。

明るい茶色に染めた猫っ毛の髪が視界から見えなくなったのを確認すると、あたしは息を吐いた。

頭を下げるようにうなだれてみせると、サラリと生まれつきウェーブのかかった黒髪が落ちてきた。

「会社勤めって、意外と儲かるんだな…」

5階建てマンションの3階、そのうえ3LDKの部屋であたしは呟いた。