「冗談言わないでよ。

迷った分だけ命が失われて行く。

そんな甘いこと言ってられない」


そう。


外科医として生きて行くと決めたあの日に自身の甘えや心を捨て、自分の脚で立ち続けると誓ったのだ。


今更ここで弱気になる訳にはいかない。




「冗談なんか言ってないよ。

あのねぇ、神那ちゃんは医者である前に人間だよ。

女性だからとかそういうことを言ってる訳じゃないけど。

この世に完璧な人間なんて居ないし、そうなろうとしなくても良い。

辛い時には弱音を吐いたって、泣いたって良い。

僕はそれを情けないとは思わない。

感情を無理に切り捨てる必要はないの。

機械とは違う、ちゃんと心があるんだから。

…僕を、周りの人達をもっと信じなさい。

僕は腕だけじゃなく、神那ちゃん自身も信じてるから」


肩に手を置き、真っ直ぐと目を見て話す神崎。






…神崎の言葉に救われる日が来るなんて思ってもいなかった。


心にかかった黒い雲がどんどん払われて行くのが分かる。


気を抜くと泣き出してしまいそうな、暖かくて優しい言葉。


「…煩い、分かってる」


素直にお礼が言えなくて、こういった憎まれ口しか叩けない。


人の感情に疎くて、人格じゃなく実力を求める。


そんな私でも信じてくれる人が居るんだ、そう思った。




「はいはい。

良かった、すっかりいつもの調子だね」


一瞬で二ヘラ、と砕けた笑みへと変わる神崎。


この切り替えはいつもながら早い。







自分の気持ちを素直に吐き出したのは…。




一体いつ以来だろうか。