「ないです…けど」


「だったら聞かないで、迷惑だから」


出来ることなら2度と思い出したくないことだから。


「すみません…」



「相変わらずキツイなぁ、神那さんは」


この声は…。


「藤代」


振り返るとステーションの入口に藤代が立っていた。


「あ、ふ、藤代先生じゃないですか!」


「久しぶりやね。神那さん、水原」


藤代悠。


以前ここに研修に来ていた内科医で私の育てた初めてのフライトドクターだ。


内科医でありながらも外科の仕事も出来、その場にあるもので対応する発想力や順応性に長けている。


「あれ、純さんは居らへんの?」


焦げ茶色の髪を撫でながら尋ねる。


「講演会」


「なるほどなぁ、また神那さんが拒否ったんやろ。

あ、今日から救命に勤務になった内科の藤代やで。

よろしくな?」


2人しか居ないステーションで挨拶をする。


「他んとこはもう挨拶行って来たから」


「よろしく」


「よ、よろしくお願いしますっ」