「相変わらず若い子が絶えないねぇ、神那ちゃんは」


病室へ入ろうとドアに手をかけると、後ろから声をかけられた。


「神崎、なんの冗談?」


露骨に嫌な顔をして振り返ると、いつもの砕けた笑みを浮かべた神崎が立っていた。


こっちだって好きで連れてるんじゃない。


「そんな怖い顔しないでってば、せっかくの可愛い顔が台無しだよ」


二ヘラ、と緩んだ笑顔を見せるのは脳外の神崎純。


腕は良いのに無類の女好きという残念な一面を持つ。


「あっ!神崎先生ですよね?

脳神経外科医で神那先生と同じく神の手の持ち主…」


「わはは、やだなぁ。

持ってないってば、神の手なんて大層なもの」


大袈裟に笑い飛ばすけど目が笑っていない。


「名前知っててくれたんだ、嬉しいなぁ。

女の子だったらもっと嬉しいんだけどね」


「誰だって知ってますよ、神崎先生のことは。

医学界では有名人ですから」


「嬉しいこと言ってくれるねぇ」


この人も神の手や奇跡を信じていない部類の人間。


だから少し不機嫌。


私と違って表には出さないけど。


それが社会で生きて行く為の方法だそうだ。


そんなものに興味はないから取り入れようとは微塵も思わない。


「君はえーっと…」


「あ、水原紫音と言います。

フェローです」


「ふーん、そう」





【フェロー】
この場合はフライトドクター候補生。
正式名はフェローシップ。