「バカじゃないですよ!

本当に皆そう言ってるんですから」


足を止め、声を張るフェロー。


…もういい加減にして。


「神の手なんて存在しない。

あるとしたらそれは医者の努力、経験、腕、才能の結晶。

そんな簡単な言葉でまとめないで」


今までの努力を、そんなちっぽけな言葉でまとめないで欲しい。


「でも神って言うのには間違いないじゃないですか。

奇跡の手術だってこなして来た訳でしょう?」


また小走りで着いて来る。


神の手だの奇跡だのと…。


「いい加減にして。

ここは漫画やオカルトの世界じゃない、救命の世界なの。

救命には奇跡なんてものは存在しない」


物語はいつもハッピーエンドな訳じゃない。


当然神の手だって存在しない。


そんなことも分からないのなら、とっととここを辞めてくれた方がよっぽど良い。


「俺は信じますけどね、奇跡」


まだそんなことを…。


「神の手だって存在します」



…へぇ。


「なら見せてくれる?

神の手を、奇跡を。

そうすれば信じてあげる」


私は自分の目で見て、感じたことしか信じない。


話も、技術も、人間も。


「そ、それは…」


「証明出来ないなら2度と口にしないで。

神の手も奇跡も存在しないから」


聞くだけで不愉快になる。


「絶対に証明して見せますから」


強い口調で言い切った。


「そう、楽しみにしてる」


そんなこと出来る筈がない。


存在しないものは証明の仕様がないのだから。