Leben〜紫陽花の強い覚悟〜

「あのっ、どちらへ行くんですか?」


またも着いて来るフェロー。


「患者の付き添いである担任のところ。

待合室で待ってる筈だから」


「どうしてですか?

説明なら詳しい結果が出てからの方が…」


いちいち煩い。


「説明じゃない」


第一説明だったとしてもそんなムダなことはやらない。


こんな軽傷患者の告知なんてなんの役にも立たない。


どうせ告知するなら余命宣告する方がよっぽど良い。


「説明じゃないなら一体なんなんですか?」


「それぐらい自分で考えて、医者でしょ?」


1度立ち止まり、目を見据えて話す。


救命の医者ならこのぐらい分かる筈。


「そうですけど…」


1言どころか、2言も3言も足りない神那。


そしてまた足早に歩き出し、担任と思われる男の前に立ち止まる。


待合室はこの担任が居るだけだった。


すると項垂れていた男がゆっくりと顔を上げた。


「あの子の担任?」


担任の顔はまさしく顔面蒼白。


「あ、はい。そうです」


寝癖のついた黒髪のヒョロッとしたなんとも頼りなさそうな男だ。


「あの…彼は大丈夫なんでしょうか?」


パッと立ち上がり尋ねて来る。


いかにも担任が言いそうな言葉。


そんなに懇願するような目で見られても困る。


あの程度なら放っておいても死にはしない。


ヘリや消防なんか呼ばず、自分の脚で病院へ行くのが最適だった。


いくら気が動転していたといってもそのぐらいのことすら考えられないとはね。