気付けば私から話しかけることも多くなってた。よく会う人に親近感を覚えるって、心理学で何て言うんだっけ。
「ねぇ、この本読んでみて。」
「俺は今こっちを読んでんだよ。」
気怠そうにこちらを向いてそう言う。そんなくだらなそうなのより、この本の方が五百倍面白いのに。
「あと五分で読み終えて。」
「はぁ?」
でも、どうしても飛田くんに読んで欲しかった。この季節が終わる前に。
「つか、鼓名に言おうと思ってたんだけど、図書室の窓から外見たことある?」
さっきよりは生気のある表情で聞かれた。
「ないけど。」
「やっぱりな、本ばっか見てるから。」
そう言うと私を窓際に連れて行く。
「下見てみ。」
「えっ・・・」
この学校の図書室は3階にあって、窓からは普段通ることのない裏庭が見えた。そこに一本の木が、真っ赤に咲いたもみじの木があった。
「こんな近くに秋はあるんだぜ。まぁ近くにあるからこそ、気付けないことってあるよな。」
「本当、知らなかった。すごい綺麗。」
「写真撮り行く?ここだとシャッター音も響くし。」
「行こう。」
休み時間が終わる三分前。放課後だって撮りに行ける。でも、今が良かった。またこの男と一緒に秋を撮りたかった。階段を下りて裏庭まで行く途中でチャイムが鳴る。二人が気に留める音ではなかった。
裏庭に着くと、少し前から構えてたカメラを切る。
「また教えてもらっちゃったね。」
「俺にも教えろよ。何で秋を撮りたいんだ。」
この前聞かれた時より、素直にこの言葉が入ってきた。
「見つけようとしないと、あっという間に冬になっちゃうでしょ?だから、かな。」
「は?それだけ?」
「それだけ。一ヶ月で二枚も撮れたし、結構満足した。」
「じゃあもう探さないってこと?」
「まあ、そうだね。」
その後。長いと感じる沈黙の後で。
「俺と付き合えよ。」
あの日みたいに突然、そんなことを言った。いつも突然だ。でも、私は飛田くんの気持ち気付いてた。そして自分の気持ちは
「それは、出来ないかな。」
同じではなかったことも。
「・・・そっか。だよな〜、お前彼氏いるだろ?」
「逆に何でいると思ったの?」
「鞄に付いてるくま。その男とおそろいなんじゃねぇの。」
笑った。意外とピュアなんだな。飛田くんは意外な部分が多い。
「確かにおそろいだよ。でも、女の子。友達と。」
「は?俺ずっと勘違いしてた?まぁそうだよな、お前に男いるわけねぇか。」
生意気で、失礼な部分はもっと多い。
「今から戻るのもあれだし、五時間目終わるまでここにいようぜ。」
「そうだね。」
それからはなんてことない会話をした。あの本のオチを私が知ってることを知ってたみたい。夏休みが終わってすぐくらい、私が読んでいた本を自分も借りて、何回も読み直したことを教えてくれた。
多分飛田くんはずっと前から私のことを知っていて、ずっと知ってる私のことを何にも知らなかったんだと思う。
時折飛田くんは切なそうな横顔をする。貸した本の主人公に、やっぱりそっくりだと思った。あの本を読んでるかは知らないけど、あえて聞こうとも思わない。
そうしているうちに、二人を離すチャイムが鳴った。

