君がくれた秋。





「お前は本当に図書室が好きなんだな。」

変わらない。初めましての頃から何にも。秋の写真を撮りたいなんて思わなければ良かった。この男に出会うくらいなら、椅子に座って冬を待っていれば良かった。

「返しに来たんだ。はいこれ、お前が読め読めしつこかっただけあったよ。面白かった。」

「読んでくれたんだ。」

「あぁ、主人公が俺みてぇだなって思った。」

「そうなの!あっ・・・」

同じことを思ってくれて嬉しいけど、そんな本を本人に貸すって、告白するよりずっと恥ずかしいことだって、どうしてあの時気付かなかったんだろう。

「あとこれやるよ。」

「撮ってたんだ。プリントしてくれたの?」

「あぁ、そんなに秋が好きなら一緒に撮ってやろうと思って。良い感じだろ?俺、写真家になれんじゃね?」

写るのは、金木犀の背景に私の後ろ姿。私がお母さんと電話をしてる時、気付かなかった。携帯で撮ったとは思えない、本当に綺麗な一枚だった。

「じゃあ俺もう行くわ。」

待って。
そう言いかけたけど、言えなかった。

飛田くんを好きということで、自分が自分じゃなくなっていくような感覚がこわかった。
ただ単に勇気がなかっただけかもしれない。
けど、私はもうこの気持ちを忘れてしまおうと決めた。
写真は図書室のごみ箱に捨てた。

この日以来、図書室に通う回数は三日に一回、一週間に一回、一ヶ月に一回と減っていって、飛田くんに会えない寒いだけの冬休みを終えると、もう秋には二度と戻れなくなった。