────「そう思って、俺はこの時代に来た」
あたしの前まで歩いてきた隼斗は、水面に反射する真っ赤な光を背中に浴びながら話を続けた。
「俺の命がお母さんのお腹に宿ったのが、明日。3月8日。
俺の両親が結婚する未来はもうない。
結婚がなくなったってことは、俺が産まれる未来もない。
だから、俺はこの世界から消える」
準備していたかのようにスラスラと言葉を並べていく。
頭が痛い。
割れそうなくらい痛い。
「俺は、そういう運命なの」
何が、起こってるの?
いやだ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
離れなくない。
理解しがたい話ってことには変わりないけど、隼斗が言いたいことは、理屈的には、分かる。
でも理解なんかしたくない。
だってそんなことありえるの?
自分の心臓の音がどんどん速くなる。
「理解できた?」
隼斗の後ろで光っていた夕日が落ちて……
「────お母さん」
世界が暗闇に包まれた。

