「いつから……?」
ようやく、蚊の鳴くような声で、清美はそれだけ絞り出した。
「いつから、聞いてたの?」
「うーん、最初から。帰ったと見せかけて、実はこっそり清美のあとをつけてたの」
「そこまでして……」
「だって心配だったんだもん。なんか良くないことに巻き込まれてるんじゃないかと思ったし。まあ大したことなくてよかったけど」
「た! 大したこと……」
「ないでしょ? 告白の返事を断るなんて」
「………………」
朱里は、なにかが吹っ切れたような清々しい表情をしていた。
「はーあ。清美は強いよね。自分の心に嘘をつけるくらい」
「そんなこと……ない。私は臆病だよ。友だちを失うことが怖くて、傷つけなくてもいい相手まで傷つけちゃうほど」
「清美のそういうところ、私は好きだよ」
「………………」
突然、背中の一点に痛みが走った。朱里が手のひらで、思い切り叩いたのだ。
「らしくないよ清美! シャキッとしなシャキッと!」
「朱里……」
「今日さ、ちょっと付き合ってよ。なんかデザート食べたい気分だし」
後方から来たバスが、徐行しながら清美たちを追い抜いた。まもなく駅への発車時刻だ。
「もちろん、清美のおごりでね!」
朱里がバスの背中を追いかけながら、笑ってそう言った。清美も負けじと、
「朱里のおごりだよ!」
元気に駆け出していた。
――END――