「ごめんなさい!」

 清美は最初にそれだけ叫ぶと、勢いよく頭を地に近づけた。

「私、先輩とは付き合えません! ごめんなさい!」

 清美が選んだ道。それは。

「? なん? だって……」

 まさか断られるなんて思ってもみなかったのだろう。拓海は口をあんぐりと開けたまま短く呻いた。

「なん、で? 俺は、本気で……!」

「私も好きです!」

 拓海の答弁をさえぎって、清美はなおも叫ぶ。

「だけどその、なんていうか……私の、先輩に対する気持ちは恋愛感情じゃないんです! だから、ごめんなさい!」

 交際の申し出を破棄。もちろん清美だって本意ではない。恋人同士になれたらという下心も少なからず心の片隅に存在しているのは確かで、惜しい気もする。しかし、だ。
 結局のところ、相手の心に傷を負わさせずに断る方法などないのだ。あるとしたら、ただひとつ。すっぱりと諦めさせること。

「………………」

 拓海は、依然として間抜けのごとく口をぱっかりと開けていた。YESの返事でも期待……いや、確信していたのかもしれない。だとしたらやはり心苦しいものはある。
 清美はもう一度、拓海に深々と頭を下げると、呆気に取られている彼に背を向けて何も言わずに屋上を去った。