(………あ、もう9時だ…。)
そしてそれから数時間後
私は塾が終わる時間が近いことに気づき
片付けを始める。
(……帰り……勇さんに会えるかな…。)
ちょうど今から帰れば
閉店準備の時間に
お店の前を通ることができる。
もし今日勇さんがいれば
暖簾を外しに外に出るかもしれない。
(そこで会えないかなぁ……。)
私はそんなことを考えながら
荷物を持ってエレベーターで下に降りる。
まぁでも
いつもそんなことを考えながら
塾を出る日に限って
勇さんと偶然会うことはないんだけど。
私はそんなに期待しないでおこう、と
心で思いながら
塾を出て、外へ歩き出す。
───そんな時
「あ、北澤!」
「!あ、要くん…!」
偶然、下で要くんに会った。
さっきの友達たちと話しながら
下に集まっていたみたい。
私は皆に会釈をして
「ばいばい」と要くんに挨拶すると
不意に 要くんに呼び止められる。
「北澤、帰り道そっち?」
「え?うん、そうだよ。」
「俺もそっちなんだ。
そうだ、一緒に帰ろうよ。」
(え?一緒に?)
要くんは普通な態度でそう言うと
一緒にいた友達に挨拶して
私の方へ駆け寄ってきた。
私はそんな要くんを見上げて
驚きに目を丸くするけど
特に他意の無さそうな
要くんの微笑みに
私は無意識に「うん」と返事を返す。

