──────は、いいものの。
「兄ちゃーん!こっちにビール1杯!」
「はい、すぐ持ってきます。」
「勇くんこっちにも後で注文来てくれー。」
「………。」
もう夏に入ってるというのに
相変わらず繁盛している『岳』。
季節関係なく
夜はいつも通り混むみたいです。
───この状況、完全にデジャヴ。
(また閉店してから言おうかな……。
その時のために今は心の準備しとこう…。)
そんな風に思いながら
私は混み合っている店内と
忙しそうな勇さんと店長を静かに眺める。
勇さんって花火大会とか行くのかな……?
あんまり興味なさそうだなぁ。
断られたらどうしよう…。
私は働く勇さんの姿を見ながら
そんなことを考えて
うーん…と悩み混む。
そんな時に
思いもよらず---
忙しい時間の中で
勇さんが突然、私の方に振り返った。
「柑奈。」
「!? え、は、はいっ!」
「…悪い、ちょっと話あんだけど
今日閉店まで残れたりしねェ?」
そしてそのままそう言って
勇さんは私の方まで歩いてくると
カウンターに座る私を見下ろしながら
そう尋ねてくる。
いつもと変わらない無表情───。
どんな話なのか全く察することが出来ず
私はとりあえず「はい。」と返事をして
コクコク、と頷いた。
私も最初から残るつもりだったし
ちょうど良かったかも。
私の言葉に勇さんが頷くと
勇さんは再び 仕事に戻る。
私は
あと少しでやってくる
お客さんの減る時間帯を
カウンターの席に座って 静かに待った。

