(っ………もう、ダメ。)













こんなの、もう我慢できないよ───。











そう思いながら、私は前に回っているその腕に ゆっくり触れる。





それと同時に───涙が零れ落ちた。











……見なくたって 分かる。











…知ってるんだもん、私。





…知ってるんだもん、この腕。











あの日私を助けてくれた


この腕を───忘れるわけない。







声も言葉遣いも温もりも


───全部 覚えてるんだから。











「何で、ここ………っ。」

「……分かるよ、お前のことなら。」











私に腕を回す彼が

私を抱きしめる力を強めて、そう言う。







私がその言葉にまた涙を流すと

彼は私の首に ゆっくりと額を乗せた。











「…また、勝手に逃げんなよ。」

「っ……。」

「…絶対いるって、言っただろ。」











早くなる鼓動と重なって

勇さんの視線が…言葉が 私に向けられる。






背後から私の顔を覗き込んできた彼の視線と


私の視線が静かに交差して








どちらのものとも分からない鼓動の音が





確かに───耳に響いていた。