私はそう思いながらも


それ以上何か
言葉を発することができなくて






黙って…カナの言葉を待った。








……カナが勇さんのことなど

知ってるわけもないのに……。










「………柑奈に」

「…!」

「今の柑奈に…言っていいことなのか…分からないけど」









──────しかし







カナからの返事は
予想とは違うもので





私はその言葉に
思わずカナの方へ振り返って


言いにくそうな顔をしているカナの横顔を




静かに…見つめた。









──────ドクンッ、と









嫌に 心臓が鳴る。










「……何…?」

「………。」

「……カナ…?」









私は黙っているカナに

言葉の続きを促すように



そう…彼女の名前を呼んだ。








すると少しして



カナが 私の方を向いて
「本当にいいの?」と尋ねてきて




私はそれに 静かに頷く。










──────平気、大丈夫。







何を聞いたって…大丈夫。









そう言い聞かせながら

私がカナの言葉を待っていると







カナがそうして────



重そうな口を ゆっくりと開いた。













「……前に見たよ。
お兄さんと女の人が、2人で歩いてるところ。」












多分去年、柑奈が言ってた

あの女の人と────。













カナのそう言った言葉を聞いて





私は静かに


その場に立ち止まった────。












心臓が




嫌な音を立てて 激しく鳴り始める。