─────見られてた? 柑奈に?
俺はその事実に呆然として
割れて散らばった床の皿など
気にもとめず
目の前にいるそいつの言葉を
静かに聞き入れる。
「本当はあの日…北澤はツリーのすぐ側まで行ってました。」
「………。」
「でも声をかける直前に───
あんたが、そこでキスしたのを北澤は見ちゃったんだよ。」
────でもそれは
1番、俺が恐れていたもので。
ドクドクと流れる血液の感覚を
こんなにも…リアルに感じたことは
人生で初めてだった。
「…北澤は、地方の大学に進学します。」
「っ…!」
「今日はその…引っ越しの日なんですよ…!!」
目の前のこいつは
俺にそう言いながら
体を怒りで震わせて、
カウンターの上で…強く手を握る。
そして
俺を睨むように、鋭い視線を向けた。
俺はその視線に何も返すことができずに
その場に立ち尽くしながら
静かに……店長に 視線を向ける。
「……店長は……知ってたんすか…。」
「………俺は何も知らねェ。」
店長は俺にそう言いながら
決して視線を合わせず、
背中を向けたまま…そう答えた。
────店長は嘘をつくとき、絶対に人の顔を見ない。
(………っ…まさか……)
じゃあ……今朝の、女は……っ…?
───俺はそう思った瞬間に
サァッ…と、血の気が引くのを感じた。

