「なんで、あいつに俺の部屋貸そうかと思って。」
「………は?」
その言葉に、店長さんが間抜けな声をあげる。
(………え…。)
私も初耳だったその言葉に
店長のみならず、私までも
間抜けな顔を浮かべてしまう。
しかし
お兄さんは何ら気にしていないような
普通の表情のまま
こちらに、顔を向けた。
「来れば?俺ん部屋。」
「っ……え…!?」
「まだ野宿よりマシだろ。」
野宿のが良いんだったら止めねェけど。
そう言いながら
私の返事を待つように こちらを見る彼。
店長さんはこの状況に唖然としているのか
黙って、私たちを見ていた。
私は、店長とお兄さんの視線を受けながら
慌てふためく脳内を 必死に整理する。
(お兄さんの部屋に、って……
だ、ダメだよね?ナシだよね?
でも、お兄さんが悪い人のようにも見えないし……でもやっぱり…っ。)
『男の人の部屋』となると
途端に、決断が鈍る。
こんな出会って数十分くらいの
女子高生に あの人が手を出すなんて
考えられない気もするけど……
世の中何が起こるか分からない感じするし……。
「……え、っと…っ。」
「………。」
そんな色々な考えが混合し
なかなか答えが出せない私を見て、
お兄さんは
静かにエプロンを外して
私の方へ歩いて来た。
そして
いかにも無害そうなその態度で
私に向かって、こう告げる。
「…別に何もしねェよ。
絶対に、手なんか出さねェから。」
部屋に用心棒がいる、くらいに思えば?
そう言いながら
お兄さんは私の隣の席に座る。
店長も、暖簾を片しながら
厨房の中へ戻っていった。

