「こんな仕事やってられるかよ!」
沢木守はこの会社へ入社してから、何百回その言葉を胸の中で怒鳴り散らしたことだろうか・・・いつもそんな胸の内とは裏腹に、愛想笑いを浮かべながら!

得意先では、散々製品の文句を云われて平謝りに頭を下げ、社へ帰っては山田課長から日々小言を云われ。同僚達からは、成績争いで足を引っ張られ、気持ちの安らぐ人間関係なんて皆無だった、ホントにひどい会社だ。

そもそも大学を卒業後、しばらくフリーターをしてた沢木が意を決して、この会社へ入社したのは27歳の時だった。気ままなフリーター生活を止めて、社員として働き始めた理由は、当時付き合っていた彼女の要望だった。

あれから3年、その彼女とも、とおに別れ独り身の沢木にとって、この会社に無理をして留まる理由なんてこれっぽちもなかった。
だったら何故、辞めずにい続けるのかと云えば、気弱な沢木には、たった一言「こんな仕事やってられるかよ!辞めてやる!」とまで云わなくても「辞めます!」とすら、云えないからだった。

「あんな会社やってられるかよ、辞めてやる!」
今夜も沢木は口癖のようになった「辞めてやる」を胸で呟きながら、アパートへ向かって独り歩いていた。