何事も信じず、誰も信じようとしなかった彼に、魔石も入り込めなかったのです。
ですから彼は・・・魔石を封印することが出来ました。

それ以来、人間は自らの過ちを悔やみ、“君臨者”は人間を見守りながら暮らしているのです。

そして彼らは、戦争を終わりに導いた英雄を、こう呼んでいます。
【クロス】―――と。







「そんな話・・・昔の話だろ?」

話を聞き終えたファロルは緊張感の欠片もない声で尋ね、セキルもまた、くすり、と小さな声で笑った。

―――えぇ、確かに昔の話よ。でもね、大切なのはここから。

セキルは再び、遠い思い出を思い出すように語り始めた。







クロスが魔石を封印してからというもの、それから暫くは穏やかな日々が続いていたのです。
その平和が続いたのは・・・約五千年。
人々はその間、徐々に平和である毎日が当たり前になり、あの人間と“君臨者”を巻き込んだ大戦争も、昔のこととして忘れかけていきました。

しかし魔石はその間、徐々に力を取り戻し、復活しようと力を蓄えていたのです。

そして約五千年後・・・魔石は復活してしまいました。
しかも封印されている間、力を増幅させ、更に強力になっていたのです。



そして再び訪れた、戦いの日々―――・・・



―――その戦争は今も続いているわ。再び、魔石が世界を呑み込むかもしれない。

「でも・・・」


―――それに貴方は・・・

「・・・?」

呟きかけたセキルの言葉に、ファロルが訝しげに眉根を寄せた。

―――いえ、何でもないわ。それよりも・・・石を・・・して・・・

「・・・?セキル?」

―――魔石を・・・探して・・・



その声を最後に、セキルの声は途切れた。

・・・思い返してみると、やっぱり不思議な少女だった。
どこか大人びた雰囲気があって、儚げで・・・

「あ・・・十字架のこと、訊くの忘れた」