「これ、何だか知らないか?」

言われ、訝しげにレクトはその右手を見た。
すぐに彼は「あぁ」と頷き、ファロルに向き直る。

「“君臨者”の証・・・だな。何でお前がこんな物を?」

「・・・“君臨者”」

“君臨者”とは、俗に言う神や仏と似たような存在だ。
見た目は普通の人間と何も変わらない。
彼らが人間と違うのは、二つだけ。
一つは、人間の寿命を遥かに超えた存在であるということ。
もう一つは、“君臨者”にしか使えない能力があるということ。
ファロルは、“君臨者”じゃない。
だから、その証を持ってる筈も無い。

・・・それなのに、あるのだ。

つまり・・・

「あの夢は・・・現実?」

「夢??」

ぽつりと呟いたファロルの言葉を聞き、レクトが首を傾げる。

―――ファロルは見た夢についてレクトに語った。
信用出来るレクトだから、だ。
きっと彼以外の者には、言わなかっただろう。

「ふぅ~ん・・・そんなことがねぇ」

壁に背中を預け上を見上げていたレクトは不意にそう呟き、ファロルの右手の模様を見つめた。

「俺はその女の子が気になるな・・・彼女こそが“君臨者”じゃないのか?」

「俺に言われても」

ぴしゃりと言い返され、レクトは首を竦めた。
しかし急に真顔になると、「それより」と言葉を続ける。

「真面目な話、それが本当だったらどうするんだ?」

怪訝そうにファロルが眉を寄せると、「だからさ」と言い直す。

「もしもそれが本当だとして、お前は何をするんだ?無くなった光を取り戻せってか?」

「・・・よく考えるとそうだな」

「バカ。考えなくても分かるっつの」

呆れたように・・・呆れているのだろうが、レクトは本日何回目かも分からない大きな溜息を吐いた。
やれやれ、というように、小さく首を横に振る。