―――宴・会場

「・・・ッ遅いッ!!」

傍目からみても苛ついているのがよく分かる程、眉間に皺を寄せた青年。
緑色の髪を長く伸ばし、それを背中で一つに纏めていて、同じ色の瞳。
服は・・・例えるならスーツ。
否、タキシードと言ったほうが適切か。
ともかく、誰の目から見ても美青年。

―――彼の名はレクト・ガルティン。
ファロルの、数少ない友人と呼べる存在。
彼の家もまた、有名な名家だ。

「ったくファロルの奴・・・今日も来ないのか?」

面倒なのは分かるが・・・とブツブツレクトが呟いていると。

「キャァァァアアーーー!!」

姫達の悲鳴に近い歓声にレクトの声が掻き消され、声の方向を見ると・・・

「ファロ・・・」

「ファロル様ーーーっ!!」

レクトが言い終わる前に、姫達の甲高い歓声に再び声を遮られ、レクトは重々しい溜息を吐いた。

黒のタキシードに似た服に身を包み、見た目だけは流石名家の一人息子と称すべきか、何とも言えない品格を感じさせるファロル。
頬を紅潮させて近寄ってくる姫達に優雅な笑みを向ける。
これが、ファロルの表の顔。
ファロルは姫達のエスコートの誘いを断り、つかつかとレクトの元へ寄ってきた。

「ハァ・・・レクト、変わってくれ」

「無理だな。ていうか嫌だな」

「ホント疲れる。いいよな、レクトは気楽そうで」

「・・・それは俺がモテてないと言いたいのか?」

本日二度目の重苦しい溜息を吐き、レクトは髪を掻き上げる。
常人からすればそれすら格好良く見える。
・・・・・だが、姫達の目は、彼には向いていない。

「まぁ、姫の目的はお前だけだからな、ファロル」

「・・・」

「・・・ファロル?」

「なぁレクト、お前神官だったよな?」

突然のファロルの問いに戸惑いながらも、レクトは頷く。
ファロルは右手をレクトに差し出した。