―――・・・

っく・・・ふぇ・・・

「誰・・・だ?」

ひっく・・・っく・・・

「誰・・・なんだ?」

誰かが・・・泣いている。

俺はそれを、少し遠くから見ていた。

ぅ・・・ふえぇ・・・っ

その声は凄く・・・悲しそうで。

俺は思わずその声のする所へ、手を差し出した。
しかし、その声の主はその手を掴もうとしない。
依然、悲しそうな声を上げて泣くだけだ。

「何で、泣いてるんだ?」

答えないことを覚悟で訊くと、予想外にその声の主は涙で濡れた顔を上げた。
・・・・・少女だ。
俺より一つ二つ年下くらいの。

「光が・・・無くなったの」

「光??」

コクン、とその少女は頷く。

「この世界を支える、光」

少女は右の手の甲・・・そこに刻んである十字架を左手で握り締めた。

「その光は・・・人の心」

「人の心・・・・・?」

「そう、人の心。でもその光はとても弱い。
だから今、闇に打ち勝てずに奥底で眠ってるの」

少女はゆっくり俺に目線を定め――微笑んだ。
その笑顔はそう・・・・・光のよう。

「貴方に、世界を委ねます」

―――委ねる??
少女は俺の右手を握り、その右手に指で十字架を描いた。
スゥ、と微かに光が発し、俺の顔を照らす。
するとそこには、少女の右手に刻んであったものと同じ十字架が現れていて、ふと見てみると少女の右手にあった十字架は消えてしまっていた。

「いずれ、また会うことになる筈だから・・・
その時、貴方に訊きたいことがあるの」

「いずれ?・・・今じゃダメなのか?」

少女は小さく頷いた。

「今ではダメなの。それに・・・・・」

少女の体が、淡い光を発する。

「もう、時間だから」

少女の体が・・・透けていく。

「待ってくれ!!」

俺は無意識に手を伸ばした。

「お前の・・・お前の名前は・・・っ!?」

少女の口元が微かに動いた。

―――セキル。