―――ゼティラン神殿・書物室。

「んー・・・これか?いや、違うな・・・」

ペラペラと分厚い資料を捲りながら、そこにいた青年は小さく呟く。
次々に別の資料を手に取りながら、文面に目を通す。

・・・幾分、経った頃だろうか。
山のような資料に目を通し続けたレクトは、あるページに目を留め、そのページを注意深く読み返した。

・・・そして読み終えたレクトは、その資料を抱え足早に、彼の元へと向かった―――







―――セルトーン家。

微かにカーテンの隙間から零れる光を見ながら、ファロルは無意識に、右手に刻まれた十字架を指先でなぞった。

「・・・セキル、か」

何度か声を聞いた少女・・・姿を見たこともあったか。
ともかく、彼女の声が頭にこびり付いて離れない。

―――魔石を・・・探して・・・

今まで数え切れない程の美少女、美女を見てきたが・・・
彼女ほど美しい少女はいただろうか?
否、いなかった。
きっと、何処を探してもいないだろう。
それ程に、彼女・・・セキルは美しい。
いや、例えそうじゃなくても、俺は・・・

「俺は・・・何を考えてるんだ?」

答えを無理矢理閉ざし、ファロルは自嘲的に笑った。

―――俺に、人を愛す資格なんてないのだから。
だとしたら、答えは簡単じゃないか・・・

「俺は、彼女の期待に応えるだけだ」

・・・そうだ。
俺に、人を愛す資格なんてないのだから・・・


「ファロル様」

「ああ、シュリアか。どうした?」

部屋の扉の外・・・セルトーン家のメイドの声が聞こえ、ファロルはそのメイドに話し掛けた。
メイド・・・否、シュリアは扉の外から話し始めた。

「旦那様がお呼びで御座います・・・あの、ファロル様」

「何かな、シュリア」

「今は行かれないほうが・・・よろしいかと」

「・・・それはどういう意味で、かな?」