「ファロル様!ファロル様!」

慌ただしげな声と共に、廊下を走り回る女中の足音。
しかも、一人ではなく。
何人走り回っているのだろう・・・兎に角砂埃が立つのではないかと心配になるくらいの慌ただしさだ。(いや、実際にはカーペットだし砂埃が立つ訳はないのだけれど)

「大変だなぁ・・・まぁ、出て行ってやんないけど」

口元に薄い笑みを浮かべ、その様子を窓から覗いている少年。
歳は・・・17歳くらいだろうか。
彼の名前は・・・ファロル・セルトーン。
この国、ぜティラン国の中で一番二番を競う貴族の、一人息子。
つまりは・・・御曹司。

そう、女中たちが必死になって探し回っているのは・・・他でもない彼の事だ。
ファロルはフッと笑って窓のカーテンを閉めると、暗くなった部屋の電灯を灯した。

「だーれが好き好んでで姫のエスコートなんてするかよ・・・」

そう、これが女中がファロルを探している原因。
今夜、ファロルの家・・・というか屋敷で、かなり大きな宴があるのだ。
もちろん、彼はその宴に出席せざるを得ず、他の貴族や姫のエスコートをする役目にある・・・はずなのだが。
彼はその仕事をきっぱりと「嫌だ」と言いのけ、今この状況。
あと数時間に迫った宴に向け、女中は総出でファロル探し。

「見つけられるもんなら見つけてみろよ・・・♪」

この部屋、実際ファロル以外は知らない部屋なのだ。
ファロルの部屋の本棚の後ろ・・・さらに暗号を入力すると扉が開き、この部屋が現れるようになっている。
安心も安心。ファロルは側にあったベッドに寝転び、眠気に任せて夢の中へ落ちていった。