「ああ、そうだ。そのとおりだよ……マジュが目覚めないかぎり、歪んだ記憶をいくら正しても同じことの繰り返しになるだろう」
私の言いたいことが分かったらしく、トウジ様もそう言って頷いた。
「実際、記憶の歪みはあまり大きな問題ではないような気もするんだ。
血の繋がりがどうであれ、あの二人が親子であることは変わらない。
無理に真実を思い出させる必要もないのかもしれない。
マジュが目覚めたときに、そんなハルヒコをどう受け止めるかだけは気がかりだが……。
私が頼みたいのは、記憶を正すことではないんだ、リイナ」
「じゃあ、私は一体なにを?」
「ハルヒコの心痛をやわらげてやってほしいんだ。
……記憶のことでもわかると思うが、ハルヒコはマジュがああなって以来、正気じゃない。
情緒不安定すぎて仕事もできず、会社は他の親族に任せて自宅療養中だ。
それは知っていたかい?」
「あ……いいえ。ただ、家にいることが多いな、とは……」
確かにマジュのことになると気持ちが不安定になる様子はあったけど、家にいるのはマジュに付き添うためだろうと思っていた。
まさか本人が療養中だったなんて……。


