一方で、マリエと出会った時期や結婚した時期はちゃんと覚えている。
それでいくとマジュがお前の子として生まれるには計算が合わないだろう、と指摘すると、しばらくは悩む様子を見せる。
けれど時間がたてば、その指摘自体を記憶から消してしまう。
自分の中の偽りの記憶をおびやかす現実は、すべて『見聞きしなかった』ことにしてしまうんだ。
君が書庫で見た通りにね。
実父であればよかったのに、というひどい後悔が、ハルヒコの記憶と心を歪ませてしまったんだよ……」
「そう……だったんですか」
私はそう言うことしかできなかった。
マジュのこと、ハルヒコ様のこと……。
一度にすべては飲み込みきれない。
トウジ様はそんな私を見てながら、「すまなかったね」と口にした。
「君に初めから教えておけば、気味の悪い思いをさせることもなかっただろう。
だが、どう考えても子供に話して聞かせるのに適切な内容じゃない。
私も迷っていたんだ」


