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その夜、ハルヒコ様は「長兄夫婦との食事会なんだ」と言って、気乗りしない顔をしながら出かけていった。

私も連れていかれるのかと思ったけれど、声はかからなかった。

彼には本当に、私を自分のステイタスとして使うつもりがまったくないらしい。


トウジ様が屋敷にやってきたのは、私が早めの夕飯を済ませてすぐのころだった。


少し話しがしたい、と言って彼は私をテラスに連れ出した。

私はそこで、この一週間わだかまり続けていたあの書庫での出来事を、思いきってトウジ様に打ち明けた。


「―――そうか、写真と手紙を見たのか。……君の想像した通りだよ。ハルヒコは、マジュについての記憶の一部を混濁させているんだ」


トウジ様は私の話を聞くと、疲れたように瞳を伏せて頷いた。

テラスの柵にもたれて夜の庭に目をやるトウジ様の横に立ち、私は背の高い彼の横顔を見上げる。

肌を撫でる夜風は移ろう季節の薫りを含んで、どこか生ぬるかった。