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財閥グループの社長や幹部なんて社交に明け暮れてほとんど家にいなさそうだ、と思っていたけれど、ハルヒコ様はそうではないらしい。
もしかしたらマジュのことで特別に休みをとっているのかもしれない。
少なくともこの一週間、彼がスーツに着替えて家を出て行ったのは一日二日くらいで、あとはほぼ出かけず、私がマジュに治癒を行う時にはかならず娘のそばに寄り添っていた。
「毎回それではリイナさんが集中できませんよ」とルイさんに諭されて、昨日からは治癒には立ち会わなくなったけれど。
「リイナ、こっちだよ」
玄関を出ると、テラスまで移動してきていたハルヒコ様が手を振った。
今日も外出の予定はないらしいハルヒコ様は、ラフな白いシャツを着ている。
スタイルがいいから、シンプルな普段着姿でもさまになる。
かっちりしたスーツ姿も似合うけれど、家でのくつろいだ服装のほうが彼の穏やかな雰囲気に合っていて、私は好きだ。
そばまで行くと、ハルヒコ様は私の肩に手を置いた。
「君に紹介しておこうと思ってね。こちらは、私の兄のトウジ。よくマジュの見舞いに来てくれるんだ」


