汽車はゆっくりと走りながら、その車窓に様々な景色を映し出した。


暗闇の中、薄むらさきに発光するフローライトの浮かぶ水面。

夜空を切り取ったようなラピスラズリのトンネル。

虹色にゆらめくオパールが、羽化を待つ繭のように連なって宙に浮く、不思議な空間……。


鉱石たちの放つ光が星のようにまたたく中を汽車は行き、時折現れる停車駅では温室ドームに花のように咲くトルマリンやアメジストのいろどりを眺め、
再び汽車に乗り込んで、静かな夜の暗がりの中へ―――……。


ハルヒコ様は私の隣に座り、ひとつひとつの石の名前を教えてくれた。

博物館エリアで説明してくれた時とは違う、ただ本当に一言、その石の名を口にするだけの解説。

私の耳元で彼がつぶやく短い言葉は鉱物の宇宙に吸い込まれていくようにひそやかで、
それなのにその音の凛とした響きはいつまでも耳の底に残るようだった。



ふと耳の中に宇宙を吹き込まれているような錯覚を起こして、頭がくらくらした。



―――でもそれはもしかしたら、間近に感じた彼の体温と、コロンの甘い香りのせいだったのかもしれない。