つまらない世界史の授業をぼーっとしながら聞き流していると、隣の席の佐伯が話しかけてきた。


「なあ、小笠原。牧田さんの声って聞いたことあるか?俺、牧田さんが誰かと話してるのって見たことねえんだよな」


確かに、彼女はいつも周りをじっと見ているだけで。


クラスの子が話しかけたときも、答えずにどこかへ行ってしまった、という話も聞いたことがある。


そっと彼女の席を見る。やはり彼女はいつものように外を眺めていて。


一度、外に何かあるのかと思って休み時間に窓から外を眺めたことがある。


でも、見えたのは、『師匠』と呼ばれる大きな桜の木だけで。


あとは特に何も見えなかった。