シトラス・セブンデイ


タマキの声に恐る恐る目を細めてグランドを見ると、確かに黒瀬くんがこっちを見ている。……というか、完全に、目が合った。


瞬間、彼は私から視線を逸らした。何やら口元に手を当てて、そしてもう一度こちらを向く。その顔はほんのり赤く染まっている。


え、ええーっと、まてまて、なんだその反応は?


完全に思考が停止寸前のわたしに、黒瀬くんはあろうことか照れたように少しだけ口角を上げて、そして左手をあげてこちらにヒラヒラと二回やってみせた。

つまり、わたしに向かって手を振ってきたのだ。



「え、ちょ、え、まって、何今の、何今の?!?!」



横にいるタマキも驚きすぎて語彙力を失っている。わたしも開いた口が塞がらない。

だって、あの黒瀬くんが照れたように笑って、こちらに手を振ってきたのだ。

黒瀬王子といえば、ルックス120満点のくせして女の子への態度は氷点下マイナス35度。とにかくいつも無表情、話しかけても基本無視、告白への返事は「ごめん、無理」一択。クラスメイトでさえまともに会話もしたことがないとの噂だ。


───その彼が。



「え、いま、ナツのこと見てたよね?! てかナツに手振ったよね?!?! てかなんか照れてなかった?! え?! あの王子が笑ってたよね?!?! ど、どういうこと?!?!」



慌てるタマキを無視して、恐る恐る手を振り返すと、黒瀬くんは嬉しそうにニコリと笑って、それからペコリと頭を下げてクラスメイトの男子たちのもとへ帰っていく。その足取りは何やら軽やかだ。


って、いやいやいや、まてまてまて。


なんだかナチュラルにコンタクトをとってしまったけれど、これはもしかして、いやもしかしなくても、相当やばいことをしてしまったのでは?



「……ごめんタマキ、なんか夢じゃなかったみたい……」

「え?!なにが?!?!なんの話?!!」

「……実は朝、何故か黒瀬くんに告白されたんだよね」

「はああああ?!?!?!?!」




宇佐美 夏、17歳。どうやら私はとんでもない人に懐かれてしまったようだ。