◇
「ナツー、なに見てんのー?」
「ウワッ、ビックリした!」
「ウワッってなによ、人をバケモンみたいに」
「それは大変失礼致しました……」
「んで? 何見てんの?」
1限目終了、放課。
窓際の1番後ろという誰もが憧れるベストポジションを獲得しているわたしは、どうやら身を乗り出してグランドを凝視してしまっていたらしい。
不思議に思ったクラスメイトの環(タマキ)がうしろから突然声をかけてくるものだから、想像以上に驚いてしまった。
「べ、別に何も見てな───」
「ああ、噂の王子様ね」
ギクリ、と肩を震わせたのは気付かれていないだろうか。
恐る恐る、タマキが身を乗り出して覗く窓辺にわたしも再び並んでグランドを見る。ひとつ年下、高校1年生のとあるクラスが体育の授業準備をしているところだ。
なんてことのない光景。だけどその中に、ひときわ目立つ人物がいる。
「さすが今日も顔がいいねー、黒瀬王子は」
「ハハ、ソウダヨネ……」
「でも珍しいじゃん、ナツが王子のこと見てるなんて。みんなが噂してても、今まで興味も示さなかったのにさ」
「あー、ウン、まあ、顔はいいよネ」
「うん、確かに顔はいい」
学校イチの王子様──もとい、黒瀬 柚(くろせ ゆず)くんは、ひとつ年下の1年生。サラサラの黒髪に幅の広い二重と高い鼻、骨格はシュッとしていて薄い唇、おまけに身長は180センチという、ルックスだけは芸能人顔負けだ。
入学初日から彼の容姿端麗さは瞬く間に広がり、今じゃ全校生徒千人を超えるうちの高校でも彼の名前を知らない人はいないだろう。
誰もが認める"王子様"──だけれど彼にはひとつ欠点がある。
「あ! 見て、今日も勇者がいるよ」



