「ナツ先輩、口、むすんでる」
「えっ」
「菊池先輩のこと考えてますね」
「うっ、」
うわあ、恥ずかしい。黒瀬くんには全てお見通しなんだろうか。ていうか私ってもしかしてわかりやすすぎる?
恐る恐る黒瀬くんを見ると、少しだけ辛そうな表情をしていた。無表情ではあるけれど、少しだけ目が違う。この3日で、わたしも黒瀬くんの感情を読み取れるようになってきたかもしれない。
「どうしたら、菊池先輩のこと忘れてくれますか」
「ど、どうしたら……」
そんなの、私がいちばん知りたい。
「ナツ先輩のこと、誰より1番大事にするのに」
少女漫画の台詞かと思うくらい。思わず頬をつねってみたけれど現実で、彼のまっすぐな視線から逃げられそうにない。思わず吸い込まれてしまいそうだ。
「えっと、えーっと、……」
「……ごめんなさい、すぐこういうこと言って」
「いやいや、黒瀬くんが謝ることでは……」
「でも、困らせたいわけではないんです」
「ううん困ってるわけじゃないの! でもね、えっと、なんていうか、黒瀬くんは、どうしてわたしなんかを……?」
そう、それはずっと疑問がのこっていたこと。誰もが認める学内1のイケメン、黒瀬柚くん。入学した時から騒がれていたその容姿は何回見ても慣れないくらい整っている。それこそ、この世のものとは思えないくらい。
対して、わたしは本当にごく普通の(若しくは、普通よりも少し劣った……)高校生だ。全女子の憧れである黒瀬くんがわたしなんかを好きだと言ってくれる理由がひとつたりとも見つからないの。
「俺、前に話したことあるって言いませんでしたか?」
「えーっと、告白された時より前ってことだよね……。ごめんね、全然覚えてない……」
こんなにカッコいい人と話した記憶がないなんて、いよいよ私もオワリかもしれない。というか黒瀬王子に失礼すぎる。
「まあ、そりゃそうですよね、中学生の時ですもん」
「え、中学生……? でも私と黒瀬くん、中学違うよね?」
「中学の時、サッカー部だったんです。たまに、ナツ先輩の中学に、練習試合に行ってて。俺は自分で言うのもアレですけど、女子が観に来るのが鬱陶しくて、校舎裏でサボったりしてて」
意外だ、黒瀬くんって真面目だと思っていた。部活をサボっている姿ってあんまり想像……いや、確かに冷めた表情でさらっと練習を抜け出しているかも。
というか、黒瀬くんサッカー部だったんだ。そんなこと知らなかった。今はどこにも属していないのに。
モテるって嬉しいことばかりじゃないんだなあ。黒瀬くんほどの魅力があれば、きっと通常の人では考えられないくらいの好意を受けてきたはず。
「その時見かけたのが、ナツ先輩」
「えっ……」
「覚えてないと思います、黒いキャップを被ってて、今より身長が20センチも低かったから」
校舎裏。黒いキャップを被った、同じくらいの身長の男の子。
「え、もしかして─────」



