シトラス・セブンデイ



20分ほどして、バスタオルを頭から被った黒瀬くんがリビングに顔を覗かせた。

家にあった1番大きなトレーナーを貸してあげたんだけれど、いつもの制服と違ってラフな格好に不覚にもドキッとしてしまう。(これはたぶんお母さんがきくちゃん家から貰ったものだろうけど、黙っておく)


「すみません、お言葉に甘えちゃって……って、先輩、何してるんですか」


黒瀬くんがシャワーを浴びに行ってから。

高速で髪を乾かして、長ズボンに着替えて。それからわたしはキッチンに立っていた。半ば強引に早退させられたけど、黒瀬くんの優しさに少しでもお礼できればな、と思って。


「何って、お昼食べ損ねちゃっただろうから、作ろうかなって……」

「え……」

「昨日お弁当作るねって約束したのに、私体調崩しちゃって、約束守れなかったし……」

「ちょっと待ってください、そんなのいいから、先輩の体調が優先です、」


慌ててこちらへやってこようとする黒瀬くんにわたしはドヤ顔でフライパンを持ち上げる。母子家庭で育ったわたしは、こう見えても女子高生の中ではきっと料理が得意な方だ。


「もう半分出来上がってるからダイジョーブ! それに、ほんとにただの寝不足だから気にしないで」

「そんな、」

「オムライス嫌い?」

「……嫌いなわけないです、というか先輩が作ってくれたものならなんでも……」

「ならよかった!」


笑顔で最終仕上げに卵をチキンライスの上に乗せると、黒瀬くんが右手で顔を覆いながらはあ、と大きく溜め息をついた。


「……ずるいです、全然敵わない」


黒瀬くんの反応ももう3日目だ。なかなか慣れないとは思いつつ、やっぱり初日よりは適応力が上がっている気がする! 人間って短期間でも成長するものみたい。

とりあえずのことオムライスをふたつリビングのテーブルにおくと、白い湯気とふわりと胡椒の香りがした。得意料理、ではないけれど、短時間で作ったわりには上出来だと思う。仕上げにケチャップをかけると、黒瀬くんが心なしか頬を赤くして席に座った。

向かい合わせ。なんだか変な感じだ。


「先輩体調悪いのに、ごめんなさい、でも嬉しすぎて今ちょっと泣きそうです……」

「だから、本当にただの寝不足だから! ていうか大袈裟すぎだよ! はやくたべよ!」


いつも無表情の黒瀬くんが私の前だとこうやって目をキラキラさせるのかかわいくて思わずグッときてしまう。くそう、イケメンずるし。

黒瀬くんはカシャカシャと何枚か写真を撮った後、丁寧に手を合わせて「いただきます」とオムライスを一口頬張った。律儀だよね。

すると、本当に今にも泣きそうな顔で額に手を当てて。



「俺、今日が命日でもいいかもしれないです……」

「エエット?!」

「美味しすぎます、ていうかナツ先輩の手作りってだけで泣きそうなのに、好みの味すぎて、でも作らせたのが申し訳なくて、でも嬉しすぎてもう感情ぐちゃぐちゃでどうしたらいいか……」

「ちょっと黒瀬くんキャラ崩壊してるけど大丈夫そう??!!」

「一生大事にします」

「まてまてまて話が勝手に進みすぎ!」



黒瀬くんは目元をうるうるとさせながら美味しそうにオムライスを食べてくれて、そんなに喜んでくれるならいつでも作るのに、なんて思ってしまった。不覚。