「き、きくちゃんどうしてここに……今授業中……」
「タマキちゃんが体育担当の先生にナツが倒れたって。俺が幼馴染なの知ってて知らせてくれたみたい。ちょうど3限自習だったから」
「そんな、ごめんねわざわざ……」
タマキのイタズラっぽい顔が浮かぶ。そもそも倒れたわけじゃないのに。
「……てゆーか、ナツぱいせん、だれですか、この人」
「いや、こっちの台詞な?」
きくちゃんが笑う。嫌味のない笑顔だ。カリンくんは怪訝そうに睨んでるけど。まるで番犬。
「あ、そうだよねごめん、えっと、こっちが幼馴染のきくちゃん、菊池先輩で、こっちは1年生のハネサキカリンくん……」
「ハネサキカリン、みたことあるなー。黒瀬王子といつも一緒にいるやつでしょ?」
「どいつもこいつも柚のオマケみたいな言い方ハラ立つなー!」
倒れたって聞いてたけど元気そうでよかった、ときくちゃんが付け足して笑う。
元気そう、じゃないよ、ばか。
わたしは、きくちゃんの前ではいつだって、いい子ちゃんでいるんだよ。嫌われたくなくて、少しでも好かれたくて、大人しくしてるんだよ。
「てゆーかオレもわかった、サッカー部の菊池先輩ね。クラスの女子が入学した時からカッコいーって騒いでマシター」
「へえそうなの? それは光栄だなー」
「ウワ、余裕な感じムカつきますね。てゆーかナツぱいせんってホント何者? あの柚だけじゃなく、菊池先輩までナツ先輩推しなの?」
「いやいや待ってカリンくん! きくちゃんはそんなのじゃなくて、本当にただの幼馴染なんだよ……」
そう。少女漫画で言えば、定番で最強のポジション。絶対的ヒロイン。でも、現実はそんなに甘くない。私はきくちゃんの幼馴染、それ以上でもそれ以下でもない。
「そうそう、ナツは家近くて昔から家族ぐるみで仲良いーの。妹みたいなもんだよ」
悪気なく、至って普通にきくちゃんがそう笑って、ベットに座る私の頭をぐしゃっと撫でた。
私はそれに少しだけグサっと心を刺される。けど、昨日よりは全然マシだ。
今まで我慢してきた涙を一気に流して、それを、何も言わずに黒瀬くんが横で聞いてくれたから。



