窓の外のきくちゃんを見る。
ちょうど休憩中のきくちゃんは、フェイスタオルで汗を拭きながら、タイミングよくドリンクを取りにベンチへと向かう。その表情は遠くにいる私たちにも伝わるくらい輝いている。
ベンチでドリンクを差し出すサッカー部マネージャーに、心なしか頬を赤くしてそれを受け取った。
────聞かなくてもわかる。きくちゃんが、マネージャーのことが好きだということ。
「ナツ先輩、」
ふと、窓の外から視線を外すと。
背の高い黒瀬くんが、座る私と目線が合うようにしゃがみこんでいた。まっすぐ並行。綺麗な瞳に吸い込まれそう。
「ずっとね、ナツ先輩がまっすぐ見つめる先が、自分になればいいのにって思ってたんです」
それは、片思いをしたことがある人なら誰だってわかる感情。私だっていつも思う。きくちゃんの好きな人になれたらどれだけいいか。
「最初は見てるだけでもよかったけど、やっぱり、どうしても、好きな人の好きな人になりたいって思ってしまって」
あ、黒瀬くんの顔が、少し赤く染まる。わかりやすくて素直で、ふわりとシトラスの香水が香る。
「……好きです、ナツ先輩のこと。正直、菊池先輩にめちゃくちゃ嫉妬するくらい、好きです。誰よりも、俺が先輩のこと大切にします、だから、」
真っ直ぐでストレートな言葉と瞳に、目が離せない。これは、黒瀬くんがあまりにかっこいいからだ。
“だから、俺のこと選んで”
決して口には出さなかったけれど、黒瀬くんのまっすぐな瞳がそう言っている気がした。
「……でも、ちゃんと答えは一週間後に聞きます」
目線の高さを合わせてくれていた黒瀬くんが、一度伏せる。それからぐいっと座る私に近づいて、顔を覗き込むように真っ直ぐ下から見つめてきた。私思わずのけぞって、うわ、と声を出すと、黒瀬くんが少しにやりとしてわらう。
「だから、まだフラないでね、先輩」
だから、きみは、あまりにもストレートすぎるって!
わなわなと震えながら顔を赤くする私を見て、黒瀬くんは何やら満足げだ。私が照れるのをわかっていて、わざと距離を詰めたに違いない。
「こういうのに弱いんですね、勉強になりました」
クールな黒瀬くんがニヤリと笑う。その顔反則!素直でかわいい後輩かと思えば、こんなにずる賢い一面も持っているなんて!
下から覗き込むように私を見つめる黒瀬くんは、椅子ごと離れようとする私に気づいたのか片手で椅子を止めた。近い距離は離れない。黒瀬感がじっとわたしを見つめるからだ。
「く、黒瀬くん、近いから」
「先輩が、あんまり可愛い顔するから、もう少し見たいなって思って」
「そ、そういうの言ってて恥ずかしくないの?!」
「全然、告白するまでは中々言えなかったですけど、一回言ったら吹っ切れました」
「そ、そういうもの?」
「はい、そういうものです」
「黒瀬くんって変わり者だよ、あと趣味おかしい……」
「どこがですか? 俺は毎日気が気じゃないですよ、こんなに可愛い人、すぐ誰かのものになっちゃうんじゃないかって」
そんな歯の浮くような台詞、一体どこで学んできたというんだろう? ていうか、近い。さっきよりも近くなってる気がする。黒瀬くんの目が熱っぽくなるのを見て、そろそろ本格的に離れないとまずいかも、と私の本能が危険信号をならす。
流石に身の危険を感じる!!
「エッーーート、黒瀬くん、褒めてくれるのはうれしいけど、流石にちょっと近すぎ……」
「いや、ですか?」
「嫌というか……」
「もう少し先輩の顔、近くで見せて」
「ちょ、ちょっと待……」
「柚ーーやっーぱ俺なっとくできねー……って、アレ?」
黒瀬くんがグイッと顔を近づけた瞬間、タイミングよくガラッと教室の扉が開いた。視線だけそちらに動かすと、何故か戻ってきた果梨くんが気まずそうにわたしたちを凝視していて。
……さ、最悪だ。
「エット、ごめん、お取り込み中だったー? ハハ」
「……」
目の前の黒瀬くんの温度が一気に下がったのは言うまでもない。



