シトラス・セブンデイ


「……えっと、ごめんね? 黒瀬くん」


何に謝っているのか自分でもよくわからないまま黒瀬くんを見上げると、黒瀬くんが突然頬を赤くして口元を抑えた。いやいや、何その反応?


「う、上目遣いかわいすぎます……」


だ、だから調子狂うから!!!


「ほ、ほんと黒瀬くんって見る目がないと言うかなんというか……」

「え、何か言いました?」

「いや、なんでもない!」

「ていうか、待たせてごめんなさい、人が帰る時間を見計らってたら結構な時間に……」

「え!全然大丈夫だよ、わたしよくここで窓の外見てるし、」


そこまで言葉を紡いだあと、あ、しまった、と思って思わず口を閉じる。そんな不自然な姿は黒瀬くんだって不可解なはず。わたしよりもずっと背の高い黒瀬くんが、少し首を伸ばして窓の外を見た。

流石に気づいただろう。この教室から、グランド、ひいてはサッカー部が陣取る右グランドがよく見えるということ。

“よくここで窓の外見てるし”なんて、わかりやすいことを口に出してしまった。私がきくちゃんのことを見ていること、明らかだ。

黒瀬くんはしばらく窓の外を見ていて、その後ゆっくり口を開いた。


「……菊池先輩、ですか」

「え、っと……」

「大丈夫です、隠さなくて」

「でも、わたしってあまりにも失礼……」


黒瀬くんをみる。背が高くて、顔が小さくて、手足が長い。まつ毛が長くて、髪はサラサラで、二重の綺麗な瞳。芸能人さながらの彼がわたしのことを好きだなんて夢みたいなことで、まるで現実なんて思えないけど、流石に傷つけたいとは思っていない。


「ずっと見てたからわかるんですよ」

「え?」

「ナツ先輩が、菊池先輩を好きなことも、」


あ、と思う。黒瀬くんはこちらを向かない。
「も」の続き、それはきくちゃんの想い人だ。


「菊池先輩の好きな人も、わかってます」


まるで線でなぞるように、黒瀬くんの視線が、窓の外のきくちゃんをなぞって、その先を見る。


「先輩の目線をいつも追ってたから、わかるんですよ」


黒瀬くんには、全部お見通しだったんだ。