「……なんで果梨がここにいんの」
びゅうっと冷たい風が吹いたかと思った。不機嫌な黒瀬くんの声は信じられない程冷たい。氷点下マイナス5℃。いやもっとかも。
「べーつにー、柚がいきなり告白するなんて今までなかったから、偵察?」
本人の前では柚って呼ぶんだ、本当に仲がいいんだなあ。
悪気のなさそうに肩をすくめる果梨くんに、黒瀬くんがはあ、と一度ため息をついてからこちらへ近づいてくる。身長が高くてスタイルもいい。おまけに顔が整いすぎて、その姿はさながら芸能人のよう。不機嫌とはいえそんな姿もサマになるなあ、なんてぽけーと上の空でいたのも束の間。
ガタッと黒瀬くんが私を椅子ごと果梨くんから引き離した。それに驚いたのは私だけじゃない。もちろん果梨くんも目を丸くして私たちを見る。
「……近すぎ」
ひどく低い声でそう告げた黒瀬くんは、果梨くんを睨みつけている。いやいや、友達なんでしょ?! 黒瀬くん!
「ちょっと柚、本気? どーいうこと? なんでこんな平凡な子にそんなハマってんの?」
「もーいいから帰れよ」
「ナツ先輩、もしかして脱いだらすごいとか?!」
「……殺す」
「じょ、ジョーダンだって! ゴメンゴメン!」
果梨くんがその威圧感に思わず後ずさったので、黒瀬くんがわたしの方を見た。その瞳が瞬時に柔らかくなるのを感じた。
あれ、黒瀬くんってもしかして、わたしの前以外ではやっぱりかなり冷たいの?!
「……先輩、何もされてないですか?」
「い、いやいやいや! されるわけないよ?! ていうか黒瀬くんの友達だよね?!」
「よかった……でも、先輩、無防備すぎです。コイツ軽いから、友達とはいえ気が置けないし」
「ひっどい言いようだな柚! てゆーか俺はそんなちんちくりん興味ねえっつーの」
「は? 世界一かわいいだろ」
エッーーート! ちんちくりんは流石に言い過ぎだと思うけれど、どちらかといえば黒瀬くんより果梨くんの方が的を得ているのは言うまでもない。く、黒瀬くんってもしかしてB専なのかな。(って、自分で言うの泣けるけど!)
呆れた果梨くんが肩をすくめる。正直わたしもこの状況はどうしたものか。
「何が何だか全く意味不明だけど、柚が相当そのナツ先輩に惚れ込んでるのはよーくわかったよ」
「ええっと、それは私自身も全く意味不明なんですケド……」
「ま、柚が自分から誰かを好きになるとか初めてだし、俺もちょっとキョーミ湧いただけ、手なんて出さないから安心しろよ」
つーか、柚にはどうやったって敵わないしー。と。やれやれと言った様子で笑った果梨くんが黒瀬くんにもう帰れ、と諭されて教室を出ていく。またねー、ナツ先輩、と笑いながら。



