「あれ? もしかして、ウワサのナツ先輩?」
ふと。廊下の方から声がして振り向くと、そこには小柄な可愛らしい男の子が立っていた。茶髪の長い前髪をピンで止めている。片耳ピアスは校則違反だと思うんだけどどうだろう。
というか、誰? 上履きの色を確認すると、黒瀬くんと同じ1年生だ。ひとつ年下。
「えーーっと、、誰、ですかね」
「うわあ、めちゃくちゃ警戒されてない? おれ! ていうか心外だなー おれのこと知らないなんて」
「ウ、ごめんなさい…… 1年生? だよね?」
「そーそー、ていうか、黒瀬のトモダチですよ、いつも一緒にいるから知られてると思ってたのになー」
ちえ、と不機嫌そうに顔を顰めてから、窓際に座るわたしの方へとやってくる。1年生がこの階にいるなんて、なんでだろう。黒瀬くんの友達ということは、わざわざ私のことを見定めに来たんだろうか。
片耳ピアスくんは私の目の前まで来ると、座っている私に腰を曲げてぐいっと顔を近づけた。
「ふうん、近くで見ると意外とかわいい顔してるんすね」
「なっ……?!」
意外とって、褒められてるのか貶されてるのかビミョーなラインなんですが!
あまりに至近距離で見つめられたものだから、驚いて顔がカアっと熱くなる。慌てて椅子ごと身を引こうとすると、片手でそれをぐいっと止められた。
小柄なのに、力は思いの外つよいみたい。
「おれ、羽根崎 果梨ってゆーの、黒瀬と同じクラス、大親友」
ハネサキ、カリン。女の子みたいなかわいい名前だ。
語尾に星マークでもついていそうな軽快さにウインクまでおまけしてくれたカリンくんは、まじまじと私の顔を見て、「ま、でもやっぱフツーだね」とつぶやいた。
フツーって何だ、失礼な!
「黒瀬がゾッコンだからどんな人かと思ったけどさ。先輩、一体どんな手つかったの?」
「いやいや、それはむしろ私が聞きたいんですが……」
「なーんか腑に落ちないんだよねー。おの女嫌いの黒瀬が、先輩の話になると途端に顔赤くしてさー」
「なっ……」
「挙げ句の果てに、ちょー不機嫌で俺らのこと見てるし」
「エッ?!!」
ニヤリと笑ったカリンくんが私から離れると、視界は急にクリアになる。と同時に、教室の入り口にひどく怖い顔をした黒瀬くんが立っていた。それはもう、あからさまに”不機嫌です”って顔。
どうやらカリンくんは、私の背中の窓ガラス越しにこの不機嫌な黒瀬くんに気づいていたらしい。



