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なんんとか45分のランチタイムを終えて、教室に戻るべく空き教室を出る。
黒瀬くんとはそれなりに楽しい時間を過ごせたけれど、本当にこの王子様の貴重な時間を私なんかが奪っていいんだろうかと恐れ多い気分だ。
「あの、先輩、」
「ん?」
「今日は、一緒に帰りませんか、」
「ええ、でも、目立つし……」
「裏門からこっそり抜ければ大丈夫です、」
「ウーン…」
「……ダメですか?」
「いえ、ダメじゃないです、」
「やった、じゃあ、放課後迎えに行きます、」
うう、黒瀬くん、自分の顔がいいことをわかってやっているのだろうか。さっきから何も断れていない私、ダメダメすぎる。
「あ!黒瀬王子!」
そっと空き教室から出たのも束の間。
殆ど人がいない東校舎一番奥の空き教室をわざわざ選んだというのに、どうやら最悪のタイミングで教室を出てしまったらしい。廊下の先に、黒瀬くんのファンと思われる女子3人組がこちらを指さして叫んだのだ。
「……うわ、最悪」
「エ、」
さっき私と一緒にごはんを食べていたときより数倍低い声に驚いた。気づけばこちらへ近寄ってきた3人組のひとりが、顔を赤らめて黒瀬くんに話しかける。
私はお邪魔かなあと思ったので、ひっそり黒瀬くんの後ろに隠れておく。
黒瀬くんと同じ学年かな。黒色の綺麗なストレートボブに短いスカート。色が白くて睫の長い、これまた白雪姫みたいに可愛い女の子だ。
「あの、黒瀬くん、」
「何?」
「その人のことが好きって、……昨日公開告白したって、本当なの?」
わあ、本人を目の前にしてよく聞けるなあ。でも嫌な感じはしない。敵意を持っていたらもっと鋭い視線なはずだ。彼女はあくまで恐る恐る尋ねてる。黒瀬くんのファンは質がいい。
「うん、そうだけど」
「じゃあ、彼女出来たってこと……だよね、」
「いや、俺が一方的に好きなだけだよ」
「え?」
「片思いってこと」
「え、」
「だからごめん、今先輩との大事な時間だから、邪魔しないで」
「そ、そうだよね、ごめんね、」
「うん、ごめんね」
「……うまくいくといいな、黒瀬くん、応援してる」
心臓がドクリドクリと変な音を立てている。……本人がいる前でこんなにストレートに物を言う人、黒瀬くんくらいなんじゃない? 少女漫画でももっと紆余曲折あるような気がするんですが!
チラリと女の子を見ると、「じゃあ、大事な時間ありがとう、」と少しだけ涙ぐんで去って行く。その後ろを友達二人も追って。なんてやさしくて強い子なんだろう。
……昨日、教室の窓から見ていた時もそう。黒瀬くんは、どんなに可愛い子に告白されたってなびかない。



