「きくちゃんは、今彼女いないんだっけ?」
「いないいない、今年受験だしなー」
「そっか、そうだよね……」
黒瀬くん、1年生。私、2年生。そして3年生のきくちゃんは、大学受験を控えている。部活も夏の大会を終えたら引退だ。
「今は忙しいけど、部活終わったらまた遊びに来いよ」
「そうだね、最近行ってないし」
「母さんもナツに会いたがってる」
「きくちゃんママのご飯美味しいからなー」
「いつも食べ過ぎなんだって。まあ母さんはそれが嬉しいみたいだけどな」
家族ぐるみで仲のいいきくちゃんの家には、幼い時からよく遊びに行っていた。それこそ小学生の頃は毎月お泊まりに行ってたっけ。きくちゃんママの作るコロッケは世界で一番美味しいんだよなあ。
そんな他愛もないことを話しているうちにいつの間にか校門まで着いてしまった。
「じゃ、俺部室むかうから」
「遅刻して怒られない?」
「朝練はコーチがいないからヨユー」
「悪いヤツ」
「じゃーな、また母さんにいっとくから」
「うんありがとう、今度お邪魔するね」
ひらっと右手をあげようとすると、それより先にぽん、ときくちゃんの左手が私の頭に落ちてくる。よしよし、と言わんばかりに頭を撫でて、じゃあな、と部室の方に駆けていく。
全部、スローモーションみたい。そういうの、全部ずるいよ、きくちゃん。
……きくちゃんのこと、ただの幼馴染から、ひとりの男の子として見るようになったのは、一体いつからなんだろう。
幼馴染だからっていつも会えるわけじゃない。実際最近は部活や受験勉強のせいか、こうして登下校中に顔を合わせることもほとんどなかったわけだし。……会っていないうちに、このぼんやりとした気持ちなんて、すぐに消えるんじゃないかって思っていたけど。
どうやらそんなことはないみたい。やっぱりきくちゃんに会った瞬間、全部引き戻されてしまうよ。



