「あれ? ナツ?」
「うわっ」
朝、家から学校までの道のりにて。
いつものごとく少し早めに家を出て、人気の少ない道を歩いていたのに。後ろから突然声をかけられて素っ頓狂な声を出してしまった。
朝の散歩は気持ちがいい。澄んだ空気と明るすぎない光の温度。人のいない空間に自分の足音が響くのもすきだ。
「きくちゃん、!」
声のした方に振り向くと。
175センチの好青年が立っている。茶髪に近い地毛はくるんと跳ねていて、細身ですらっとしているのが特徴だ。その姿を目に捉えた瞬間、私の心は浮き足立つ。どうしよう、今日は髪をポニーテールに結ったけど、変じゃないかな。思わず前髪をさっと直す。
「最近会えてなかったからびっくりした、久しぶり」
「私もびっくりだよ、今日は朝練?」
「そう、ちょっと寝坊してさ」
きくちゃん。菊池 康介(キクチ コウスケ)、サッカー部。
年齢はわたしのひとつ年上で、家が近いという理由で小さい頃からよく遊んでもらっていた。所謂幼なじみのような関係。そして私の───好きな人。
憧れの少女漫画のような立ち位置だけど、実際は全然違う。
幼い頃から知ってしまっているからこそ、きくちゃんとは兄妹のような関係で、それこそきくちゃんは私のことをきっと女の子だとは思っていない。物心ついた頃からずっと、脈ナシってやつだ。
「ていうかナツ、噂聞いたぞ」
「噂?」
「黒瀬柚の話!」
「ウッ、」
まさかきくちゃんの口からも黒瀬くんの名前が出るとは思わなかった。



