シトラス・セブンデイ



「じゃあ、ナツ先輩……一緒に帰ってもいいですか、」

「う、」



タマキはひらひらと手を振りながら「あとはごゆっくり」と教室から出て行く。語尾にハートマークでもつきそうな勢いだ。

ちょっと待って、まずもって男の子とふたりきりなんていうシチュエーションにそもそも慣れていないのに、相手がこの顔面国宝の黒瀬くんだなんて心臓が死んでしまう。



「ナツ先輩?」

「あ、あのさ黒瀬くん!」

「はい、」



なんともきょとんと首をかしげる仕草はわざとだろうか。180センチもあるくせに、カッコいいだけでなく可愛い仕草まで備えているとは末恐ろしい。



「正直に言うとね、私、今の状況をまだ信じ切れていないというか、……黒瀬くんみたいな人が私のことを知ってただけでもビックリしてるくらいだし、」

「そう、ですよね」

「いや、あの、疑ってるわけじゃないけど、」

「いや、疑われても仕方ないですよね、こんなにいきなり……」

「ホントにいきなりだから驚いてる」

「……誰かに、惹かれるって、初めてだったんです」



不覚にも、どくんと大きく心臓が鳴る。これは相手が顔面国宝だからか、それともそのストレートな想いにか、はたまたその両方か。



「今まで、女の人と関わる事って極力避けてきて、むしろ苦手だなって思ってたんですけど、……先輩には、近づきたいって、はじめて、思ったんです、」



そこまで言って、カアッと効果音がついたかのように頬と耳を赤く染めた。右手で口元を覆う仕草まで完璧だ、黒瀬くんがこんな風に照れるなんて、きっと誰も知らないんだろう。

どうしよう、ずるいな、そんなにストレートに気持ちを伝えてくれるとは思わなかった。



「……それに、喋ったことがないわけじゃないんですよ」

「え?」

「いつかは、内緒ですけど」


まったく身に覚えのないわたしは頭にはてなマークを浮かべるけれど、黒瀬くんは思い出したら答え合わせしますよ、と言うばかりだった。