なーんて思って家出を考え始めたものの、森を出た所で行く宛がないことに気付く。
麓の街に行ってみようか。
それとももう少し遠くへ行ってみようか。



膨らむ考えに比例するように萎んでいくココロ。
あたしは結局ひとりじゃ何も出来ない箱入り娘で、六花に頼りっぱなしだと改めて気付く。



彼は必要最低限であたしに手を貸して、与えるだけものを与えた。
使い方なんて教えずに、ただ渡していくだけ。
まだあの人の方が優しくしてくれたかもしれない。




「ただ幸せになりたいだけなのにな」




幸せになりたい
たったそれだけの願いは、あの人が狂ってしまってからは叶わないものとなってしまった。




それまでは一言ですべてが変わる世界だった。
何も知らない籠のなかの鳥だった。
欲しいと言えば手に入ったし、行きたいと言えば連れて行ってもらえた。




叶わない願いはないと思っていたし、あたしが1番の世界だった。
愛して欲しいと言えば、父もメイドも、皆口々にあたしへの愛を囁いた。



なのに、あの鏡は余計なことをしてくれた。
世界で1番綺麗なのは自分でないと許せないあの人に、「1番は白雪です」なんて言ってくれた。
冗談だと何度も聞き返すあの人を見て、殺される恐怖に身を震わせた。




あの人が狂ったように屋敷を荒らしながらあたしを探すのが怖くて逃げ出した。
この森に入った時に足をくじき、もうダメだと覚悟した時に六花に出会った。




六花には我儘で毒舌な本来の自分で接することが出来たし、あの人と話す時のように気を遣わなくても良かったから、ほっとしたのをよく覚えている。
だからあたしには六花しかいないのだ。




六花に縋っていないとあたしは文字通り生きていけない。
ならば六花だけでも幸せにしないと。
でもそれにはお金も時間も必要。





「やっぱり街に降りて……」